1章 11話 賢者の道しるべ

 「良く来たな、フィオラ。そしてファンメイ。まさかお前がフィオラの仲間として旅立つとは思いもしなかったぞ」

 ナジミの賢者アクルは搭を上がって来た3人を出迎え。ファンメイが困ったように後頭部をかいた。

 「仲間、と言われると少々罪悪感が。ちょい訳ありでロマリアまで一緒させて貰ってるだけっすよ」
 「なるほど。………君もかな?」

 ちらりとアクルがヴェントを見遣り。いんや、とヴェントが笑った。

 「おれは " 正式 " にバラモス討伐に名乗りを上げたこいつの仲間だよ、賢者さま」

 アクルがヴェントをじっと見詰め。ヴェントが片眉を上げる。しかしヴェントが口を開く前に横からフィオラが声を掛け。

 「師匠。本題に入らせて下さい。どうしたら船無しでこの大陸を出る事が出来るでしょうか」
 「ふむ。………まあ、そう焦る事もあるまい。お前達は朝から歩きどおしで此処まで来たのだろう?軽い食事ならば用意が出来る。少し休んでいなさい」

 さり、とローブを揺らせながらアクルが部屋の奥へ入って行き。フィオラが眉を顰めた。ぽんっとその頭をヴェントが叩き。

 「………ヴェントさん」
 「まあ、奴の言う事も尤もだろ。じきに日が暮れ、今日は何処にも行けはしない。飯でも食いながらのんびり話を聞こうや」
 「………………うん」

 

 

 ………………

 

 ………………………

 

 

 「 ―――――― そうか。レーベでそんな事が」
 「………………」

 フィオラからレーベでの襲撃の話を聞き、アクルが眉を顰める。

 「レーベの結界の再構築。お願い出来ますか?」
 「わかった、引き受けよう。………………それで先ほどの話に戻るが」

 アクルの指先が広げられた地図 ―――――― アリアハン大陸の東に広がる大森林に向けられ。

 「此処だ。此処に旧時代、外交路として使われていた遺跡の跡地が存在している」
 「遺跡………」
 「通称、誘い(いざない)の洞窟、とも呼ばれているがね。嘗てそこからロマリアまで " 跳べる " 魔晶転移装置、旅の扉が稼働していたのだ」

 3人がはっとして顔を見合わせあい。アクルが1つ頷いた。

 「だが、オルテガが旅立った後。私は王命を受け装置を封印した。………旅の扉を封じるよう進言したのはオルテガだった、と聞いている」
 「………お父さんが」

 ぽつりとフィオラが呟き。ちらりとファンメイがそれを見遣った。

 「そこを再稼働させられればロマリアまで跳べる、って事っすか」
 「そうだ。………旅の扉までは私も共に行こう。レーベの結界の再構築はその道中で行えば良い。30分も掛かる仕事ではないのでね」

 アクルが一緒に来るという言葉にフィオラが驚き。

 「師匠………」
 「お前達がロマリアに跳んだのを確認した後、旅の扉は再び封じさせて貰う。つまりは一方通行。跳んだ後、扉で此方側へ戻って来る事は出来ない」
 「はい」

 退路が断たれる。その言葉の重さに。フィオラは自然と緊張した声で返事をしていた。そんな弟子の様子にアクルが微笑み。

 「ロマリアへ跳んだ後は隣国ポルトガを目指しなさい。あそこは世界でも数少ない海の玄関口。アリアハンの港が襲撃された後、行き場を失った多くの船が集っている事だろう。船さえ手に入れれば、行動範囲はぐっと広がる」
 「ポルトガ………」
 「 ―――――― さて。夜も遅い。明日も早いからな。今日はゆっくりと身体を休ませなさい」

 

 

 ………………

 

 ………………………

 

 

 コツ。

 深夜の廊下に小さな足音が響き。書物に目を通していたアクルは視線を上げた。
 戸口に立つは、ヴェント。

 「………まさかお前がフィオラの仲間として名乗りを上げるとはな」
 「………………矢張り気付いてたか」

 ヴェントが渋顔で頬をかき。くすりと小さくアクルが笑った。

 「インジールの秘蔵っ子が此方に来ていた事は驚いたが」
 「………………」
 「オリヴィエ」

 アクルが口にしたその名にヴェントが首を横に振る。

 「その名は棄てた。今のおれはヴェントだ」
 「………故郷(くに)には戻らないのか?」
 「何れは行く事になるだろう。………だが、今その予定は無い。………おれの素性の事は。フィオラ達には黙っていて欲しい」

 その言葉に。す、とアクルが眼を細め。

 「お前が " 目の前 " に在るものから目を反らすつもりがないのなら」
 「………そのつもりだ」
 「良いだろう。………さあ、お前ももう休みなさい」
 「………………ああ」

 す、とヴェントが廊下に消え。アクルが小さく溜息を零した。

 

 

 ………………

 

 ………………………

 

 

 早朝、アクルの呼び掛けに全員が搭の頂上へ向かい。空が開けているそこにファンメイが辺りを見回す。

 「うひー、絶景………。………で、俺達はレーベに先ず向かうんだよな?何でてっぺんに来たんだ?」

 アクルがくすりと笑い。握っている杖を僅かに持ち上げる。

 「ルーラという呪文の事は知っているか?」

 フィオラやヴェントは聞き覚えがあるのだろう。しかし商売人であるファンメイにはそれがわからず。んん?と首を傾げる。

 「魔力で徴(しるし)を付けたところへ " 跳ぶ " 呪文だ。あまり離れ過ぎた場所には跳べないが ―――――― そうだな。昨日話した旅の扉の簡易版みたいなものと思って貰えれば良い」
 「へえ!」

 ファンメイが眼を丸くし。横でフィオラが微笑む。

 「師匠はアリアハンにもレーベにもルーラ1つで跳べるのよ」
 「そいつはすっげえな………。なるほど、それで此処からか」
 「ファンメイ。世の中にはルーラの呪文を封じ込めたキメラの翼という魔晶具(どうぐ)がある。一人前の商売人を目指すなら知っておいて損は無いぞ?」

 そうアクルが言い。そして言葉を続け。

 「まあ、それは良い。レーベまでは跳べるがそこから誘いの洞窟までは歩かなければならない。結界の再構築もあるからな。一先ずはレーベまで跳ぼう」

 アクルが短い呪文を詠唱すれば、アクルの周囲に薄青い光の円が生じ。全員がそのなかに入る。

 「では、行くか」

 瞬間。

 全員の姿は搭から消え去っていたのだった ―――――― 。