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序章 1話 灯は語る

 人間達よ、心して聞け。
 我が名はバラモス。闇に生まれ、闇に生き、王の称の下、魔を束ね統べる者。
 今この瞬間より、世界の全ては我等魔のものとなる ―――――― 。

 

 

 ………………

 

 

 全世界にそのおぞましき声が届けられた日。アリアハンの小さな教会で1組の男女が結ばれ、神に誓いを立てた。
 夫となる者の名はオルテガアリアハン近衛騎士団の団長を務める男であり、百戦錬磨の猛者であった。
 妻となる者の名はレア。同じくアリアハン宮廷騎士団に務める者であり、花が綻んだような笑顔が愛らしい少女であった。
 それはまさしく世界が絶望に閉ざされようとしている最中に灯った小さな灯(ともしび)。
 強き眼差しを持った若い男女達は、闇色の現在(いま)ではなく、その先の未来を確実に見据えていたのだった。

 結婚から2年、レアは新たな生命を授かった。
 小さな小さな双子の生命。
 兄の名はアルマ。妹の名はフィオラ。オルテガ譲りの漆黒の髪目を持つ子供達はこうしてアリアハンに生を受けたのだった。

 

 

 しかし ―――――― 。

 

 

 「………………ネクロゴンド国が陥落し、サマンオサ国も侵攻を受け非常に厳しい状況らしい」

 双子達が生まれて半年ほど経ったある日。仕事から戻ったオルテガが重々しく言った。話を聞いたレアが表情を曇らせる。

 「あの強国サマンオサまで………。このアリアハンもどうなるかわからないわね」
 「 ―――――― レア。私は」

 迷うような、だが何かを既に決意したような光を眼差しのなかに見付け。レアはオルテガの表情を見詰めて目を細めた。

 「………行ってしまうの?」

 ぽつりと零れた言葉は、既に確信に満ちていた。一瞬驚いた表情を浮かべた後、オルテガが眉を下げる。

 「この世界の ―――――― いや。君と子供達の未来を守りたいんだ。このままでは全てが魔に陥落ちて(おちて)しまう」
 「………………………」

 そっとオルテガがレアの肩を抱き。レアが泣きそうな表情で微笑んだ。

 「叶うなら私も一緒に行きたい。でも………」
 「君は家と子供達を守ってくれ。私は必ず、魔王バラモスを倒し、此処へ戻って来る」
 「………………はい」

 大粒の瞳から涙が零れ落ちる。オルテガが表情を歪め、強くレアを抱き締めた。

 

 

 ………………

 

 ………………………

 

 

 オルテガアリアハン王から勇者の称を受け取り国を離れたのは、それから間も無くの話であった。

 オルテガは先ずサマンオサ国へ向かい、劣勢に追い込まれていたサマンオサ国を救った。その後、サマンオサの勇者であるサイモンと手を組み、ランシール聖殿へ。聖官ラドネイの助力を得、ネクロゴンド国の跡地に根城を構えた魔王バラモスの下へ侵攻した。

 3人の力は魔のそれを凌駕した。
 誰もがその勝利を予感するほどに、彼等は強かったのだ。

 しかし ―――――― その均衡は脆くも崩れ去った。

 ラドネイの裏切り。オルテガとサイモンは引き離され孤立し、各個撃破する形で敗れ去った。
 オルテガに与えていた月のサークレットを通じて、星見の賢者はその最期の記憶を辿る。

 オルテガは、ネクロゴンド山岳にあるギアガ火山の火口に魔の軍勢に追い込まれ、叩き落されたのだった。

 

 

 ………………

 

 ………………………

 

 

 砕け散る音が聞こえた。
 それは、この漆黒の世界を照らしていた小さな灯のロウソクが、落ちて砕ける、悲しくも残酷な音だった ―――――― 。