序章 3話 少女の決意

 「ひっひっひっ、見付けたよ、見付けたよ。黒髪の子供。まさしくオルテガの血を引きし者だ!」

 いやらしく魔女が嘲笑い。角材を手にアルマがそれを睨み付けた。後ろでフィオラが青ざめ、それでも気丈に魔物達を睨み付ける。

 「お前達だな。オルテガの遺児は」
 「………………………」

 鎧騎士が尋ねるがアルマは答えない。大きな金属音と共に鎧騎士が1歩前に出。はっとしたアルマがフィオラを庇った形で半歩後ずさった。

 「………魔物なんかに答える事は何も無い」
 「………………子供の癖にいっちょ前な口を利くねえ。吹き込んだのはアリアハンの王さまかい?それともナジミの賢者かい?」

 魔女が殺気立ち。しかし鎧騎士がそれを片手で制した。

 「お婆、手を出してはならん。 ―――――― わかるな?お前の魔力は " 強すぎる " のだ」
 「………ふん。生命拾いしたね、坊や」

 周囲で新たな悲鳴が上がった。魔物達が住人を襲っているのだろう。………しかしわかっていてもこの場を動く事が出来ない。
 どうすれば。焦りを込めた眼差しで、ちらりとアルマがフィオラを見遣った。
 それから2人を見返す形で睨み付ける。

 「僕達をどうするつもりだ。………いや。用があるのは僕なのだろう?フィオラは関係無い話のはずだ!」
 「お兄ちゃん………」

 くつくつと鎧騎士が鎧を揺らせて笑い。それから小さく首を振った。

 「勇ましいな。流石はオルテガの息子。………だが生憎と、王が所望しているのは " お前達2人 " なのだよ」

 所望………?この場で殺すつもりはない、のか………?でも、何で………っ。それに、フィオラまで………!?

 「!………お兄ちゃん………っ、あ、あれ………っ………」

 気付けば新手の魔物達が取り囲んでいた。そして魔物の1匹が、魔法具屋の老婆を咥えているのが見え。

 「!!………お婆さん!!!」

 既に事切れているのか、血まみれの身体はぴくりともしない。フィオラが身を震わせたままに小さく嗚咽を零し。アルマもまた震えを隠せないままに視線をさ迷わせた。

 「逃げ出そうと考えない事だ。無駄に痛い思いをしたくはあるまい?」
 「………くっ………」

 どうしよう。
 どうしたら。………どうしたらいい………!?

 ふと、アルマが何かを思い付いたように両眼を見開き。それからフィオラを見遣った。

 「………?………お兄ちゃん?」
 「………………。お母さんに、ごめんなさいって………伝えて」
 「え?」

 手早くアルマが荷物袋からルーラ草を取り出し。はっとした魔女が箒にまたがったまま急降下した。

 「こいつ!何てもん持ってるんだい!」

 しかし魔女が到達する前に、アルマがフィオラにルーラ草を押し付けて。

 「さよなら、フィオラ」
 「おにい ―――――― 」

 呪文効果が発動し、フィオラの姿がかき消えた。

 「しまった!1人逃した!!」

 アルマの手前で止まった魔女が苦々しく言い。しかし鎧騎士は戸惑う様子も無く小さく笑った。その笑い声にアルマが眉を顰め。

 「構わん。娘の方はいつでも回収出来る。一先ずは………これを連れて行こう」

 じりじりと魔物達がその包囲網を狭めて来る。

 母さん ―――――― フィオラ。………どうか元気で………。
 父さん!僕に力を貸して………っ!!!

 一度だけ目を閉ざした後、アルマは大きく目を見開き。角材を握り締めれば大声を上げ、鎧騎士に殴り掛かったのだった ―――――― !!

 

 

 ………………

 

 ………………………

 

 

 ルーラ草の魔力でフィオラはアリアハンへ飛ばされて。郊外に倒れていたところを巡回中の兵士に救出された。
 ………ナジミの村が魔物に滅ぼされた話を聞いたのは、王宮内の医療院で目を覚ました後の事。
 兄は、アルマは、見付からなかった。

 フィオラの話から魔物達が2人の " 殺害 " ではなく " 確保 " を目論んでいたという事を知り、王宮に衝撃が走った。
 勇者の芽が魔王の手に落ちた。
 それは新たなる絶望に他ならなかった………。

 

 ………………

 

 報告をしたその日。フィオラとレアは王宮に泊めて貰う事となった。そしてその夜、フィオラは1人、アリアハン王ビオの自室に招かれ。夜分遅くに訪れたフィオラにビオが僅かに笑みを浮かべた。

 「大変な1日であったな。せめてお前だけでも無事で良かった」
 「………王さま」

 ビオはオルテガと旧知の仲であり、オルテガとレアの無二の友であった。その為、幼少の頃から双子をかわいがってくれていたのだ。
 おいで、と手招かれ、フィオラがビオの座る椅子の方へと向かう。

 「良いか、フィオラ。魔物達はアルマを攫っていってしまった。そしてお前も、まだ狙われ続けているかも知れん。………幸いアリアハン国は魔物除けの結界で包まれておる。明日にはナジミの賢者が戻って来て結界を強化してくれる話になっておるのでな。これからは国外に出ず ―――――― 」
 「王さま、あたしは………」
 「うん?」

 フィオラが言葉を遮り。ビオが首を傾げた。

 「あたし、お兄ちゃんの代わりに勇者になります」
 「フィオラ………」
 「あの魔物達はお兄ちゃんを攫っていってしまった。………どういう理由で攫ったかはわからないけど、きっとまだ生きているはず。あたしは勇者になってお兄ちゃんを探して、助け出して………そして、お父さんの仇を討つ。………もう、決めたんです」

 あの大人しく、いつも兄の後ろで静かにしていたフィオラが、凛とした声でそう告げて。ビオは大きく目を見開いた後、落ち着きを取り戻したように溜息を零した。

 「………お前は女子(おなご)だぞ?」
 「わかってます。でもあたしにだってお父さんの………オルテガの血が流れているんです。………あたしは、あたしの可能性に賭けてみたい」

 ―――――― たとえどんな星の下に生まれたとしても、自分の道は自分で決めるものだ。

 「あたしの道は、あたしが決めます」

 フィオラ10歳。
 父を失い、兄を失い、勇者になる事を決意したのだった ―――――― 。