1章 12話 旅の扉を目指して

 苔と蔦に覆われた石造の入り口。
 10年以上経っているとはいえ、その入り口はあまりに早く森に沈み掛けていた。

 レーベでの結界の再構築を終えた後、アクルの先導の下、フィオラ達は森深くある泉の辺(ほとり)に足を運んでいた。
 誘いの洞窟。その入り口に。

 「此処に入るのか………」

 訝しげにファンメイが呟き。アクルが小さく笑った。

 「入り口は狭いが内部(なか)は広い。 ―――――― ファンメイ。そこに生えている青い花が付いている蔦には触れるなよ。肌がかぶれる」
 「げっ。危ね!てか!小虫ひどいなおいっ」
 「おいファンメイ。わめいてないでとっとと進め」
 「わあってるよっ。………ったく!」

 全員が慎重に洞窟のなかへ踏み入り。アクルが片手にメラの炎を灯して松明の灯りの代わりとした。
 途端に天井まで確りとした石畳が浮かび上がり、此処が人工の建造物だと知れる。

 「この遺跡の最下層に旅の扉はある」

 アクルが歩き出し、面々もその後に続いた。………が、角を曲がってすぐの大部屋で行き止まりとなり。フィオラが眉を顰めた。

 「此処は………」
 「道が見えないけど。………道、間違えたのか?」

 ファンメイがそう言いヴェントを見遣るがヴェントも肩を竦めて見せるばかりだ。

 「1本道だったぜ。迷ったなら何処かしらに分岐があるはずだろ」
 「そうだ。道は此処で合っているよ」

 そうアクルが言い。袋から何かを取り出した。一見綺麗な宝珠にしか見えないが………。
 それを大部屋の一番奥の壁の窪みにはめこんだ。

 「それは………?」
 「魔法の珠(たま)。遺跡に施した封印の、第一の鍵だ」

 ずず………。

 壁が鈍く振動をし。崩れる?とフィオラが身構えた。しかしそれ以上の振動は来ず、薄く壁が光ったかと思えばまるで幻を見ているかのように壁が霧散していったのだった。
 そしてその奥に現れた、下りの道 ―――――― 。

 「さて、行こうか?此処からが本番だ」

 あっけに取られている3人にアクルが笑い、ゆったりと歩き出す。はっとしてフィオラが続き。半瞬遅れてヴェントも続いた。
 最後にファンメイが慌てて続き。

 「あ!ちょっ!置いていくなって!!」

 その声にフィオラが思わずくすりと笑ってしまったのだった。

 

 

 ………………

 

 

 長く封じられていた所為か、遺跡のなかは驚くほど静まり返っており、魔物の気配も無い。
 しかしあれほど保存状態が良く思えていた入り口付近とは違い、下れば下るほど、彼方此方(あちらこちら)が崩落しており。最下層までの道は遠回りを余儀なくされた。

 「ファンメイ。そこ崩れるから危ないぞ」
 「わかってるよ。それより、なあ。こっちの道が通れそうだぜ。多分さっき行けなかった場所の裏側に出ると思うんだが」
 「ファン兄さん、戻って。私が行ってみる」

 フィオラが身軽に穴を飛び越え。そして倒壊した柱にロープを括り付けた。ぐぐ、とロープを引っ張り強度を確かめて。

 「 ―――――― うん、大丈夫。ゆっくり来て」

 差し伸べられたフィオラの手をファンメイが握り返し。何とか穴の向こう側へと渡り切った。

 「うへえっ」
 「大丈夫?兄さん」

 その横でとんっとヴェントが着地をし。200歳近いはずのアクルもふわりと降り立った。それを眺め、ファンメイが半目になる。

 「もしかしなくても俺が一番のお荷物か?」
 「しゃあねえだろ。お前はほぼほぼ民間人な商人なんだからよ」

 かかか、とヴェントが笑い。ふてくされるようにファンメイが頬を膨らませた。
 フィオラとアクルも小さく笑うが。ふと何かを気付いたように3人の表情から笑みが消え。そして道の先を見遣った。

 「ど、どうした?」

 ファンメイも3人から緊張を感じ取ったのだろう、不安げに声を上げ。闇を見据えたまま、フィオラが腰の剣に手を伸ばした。

 「師匠。此処は長らく封じられていた場所ですよね………?」
 「そうだ。封印の際の魔力の奔流で内部に巣食っていた魔物は全て滅されたはずだが。………タフな奴が生き残っていたようだな」
 「………ヴェントさん」
 「おう」

 フィオラとヴェントが剣を抜き。そしてゆっくりと歩を進めた。………と。鈍い振動が生じ、巨大なキャタピラーが現れる。
 そのあまりの巨体にファンメイが「でけえ!?」と叫び。アクルが眉を顰めた。

 「 ―――――― これは………」
 「キャタピラーか?何だこの馬鹿でかい成りは」

 ヴェントも驚きの声を露わにし。剣を構える。

 「此処が封じられた後、内側に巣食っていた魔物は全て死に絶えたはずだが………。それ等を " 糧 " に生き延びたか………」

 そうアクルが言い。フィオラが眼を細めた。

 「そうね。死にたくないのは誰だって同じ。……… ―――――― でもそれは私達だって同じ。生きる為に………この手を汚すのっ!!」

 フィオラが走り出し、次いでヴェントがそれに続く。

 ヴォオオオオオ!!!!!

 巨大キャタピラーが吼え。放たれた防御呪文(スクルト)により皮膚が硬化する。

 足を止めている暇は無い。迷いを抱き闘えるほど ―――――― この旅は甘くないのだから。

 「フィオラ、眼を狙え!」
 「わかったわ!!!」

 ファンメイが斑蜘蛛糸を投げ付け、キャタピラの動きを阻害し。アクルが口早に呪文の詠唱を完成させた。
 アクルのバイキルトにフィオラの刃がその鋭さを増し。

 2人の強烈な一撃が巨大キャタピラーに吸い込まれていったのだった ―――――― !!!